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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)7865号 判決

原告

瀬野康子

被告

櫂作敦基

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金一億三二八七万九七六九円及び内金一億二九八六万七三八七円に対する平成七年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、補助参加によって生じた分は、被告ら補助参加人の負担とし、その余の訴訟費用は、これを一〇分し、その九を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  二の判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金一億四〇二〇万七六九一円及び内金一億三七一九万五三〇九円に対する平成七年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告櫂作敦基(以下「被告敦基」という。)運転の自動二輪車が原告運転の足踏式自転車に後方から衝突して原告が負傷した事故につき、〈1〉原告が、被告敦基に対し、自賠法三条に基づき、損害賠償を請求し、〈2〉原告の夫である瀬野進が被告興亜火災海上保険株式会社との間で締結していた自家用自動車保険契約の無保険車傷害条項に基づき、保険金の請求をした事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成七年一一月一日午後六時頃

場所 京都府舞鶴市字大波下五三〇番地の二先路上(以下「本件事故現場」という。)

加害車両 自動二輪車(一京都う六〇二三)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告敦基

被害車両 足踏式自転車(以下「原告車両」という。)

右運転者 原告

事故態様 被告敦基は、市道浜田八田線を西から東へ時速一〇〇キロメートルで進行し、前方の同方向を走行していた原告車両を被告車両の左側方で引っかけ、原告を五メートル前方へ転倒させた。

2  被告興亜火災海上保険株式会社との保険契約

原告の夫瀬野進は、被告興亜火災海上保険株式会社(以下「被告保険会社」という。)との間で、平成七年七月九日に左記内容の自家用自動車保険契約を締結した。

(一) 保険期間 平成七年七月九日から平成八年七月九日まで

(二) 保険金額 無保険車傷害保険二億円

(三) 無保険車傷害条項の被保険者 記名被保険者の配偶者も含む

被告車両について適用される対人賠償保険はなく、本件事故は、無保険車の所有、使用または管理に起因するものである。

3  傷害及び後遺障害

原告は、本件事故により、頭部外傷、右前頭部脳挫傷、外傷性クモ膜下出血、脳内出血、右前腕部開放骨折、右肘関節脱臼、右腓骨頭骨折、右膝前十 字靱帯損傷、内側側副靱帯損傷、右足関節脱臼、遷延性意識障害、症候性癲癇、高次脳機能障害の傷害を負い、平成九年二月一四日、症状固定し(但し、右上・下肢の機能障害については平成九年三月七日)、意識障害、精神症状、高次脳障害、右上・下肢の機能障害の後遺障害が残り、自動車損害賠償法施行令別表の後遺障害等級表一級三号に該当する旨の認定を受けた。

4  被告敦基の責任原因

被告敦基は、本件事故当時、被告車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものである。

5  損害の填補

原告は、本件事故に関し、次のとおり支払を受けた。

(一) 被告敦基から一〇一六万〇二六〇円

(二) 自賠責共済から二九七一万六七五〇円

(三) 労災保険から一二〇八万〇四六三円

内訳 療養補償給付 九九〇万〇二七三円

休業補償給付 一二〇万一八二四円

障害補償給付(平成九年九月分まで) 九七万八三六六円

二  争点

1  原告の損害額

(原告の主張)

(一) 治療費 九九四万六九三六円

(二) 入院雑費 四〇万九五〇〇円

(三) 交通費(親族付添看護のため平成七年一一月、一二月分) 五万一〇〇〇円

(四) コルセット等装具代 一六万七三〇七円

(五) 自宅増改築費用 一四〇万円

(六) 付添看護費 七六三万〇三二三円

(七) 将来の介護費 七二二〇万四三〇〇円

(計算式)10,000×365×(21.643-1.861)=72,204,300

(八) 医師への謝礼 七万四四〇〇円

(九) 休業損害及び逸失利益 五四六六万九〇一六円

原告は、本件事故前、日本板硝子株式会社舞鶴工場にパート勤務し、平成六年一七九万四四三一円の収入を得るとともに主婦として家事労働に従事していた。ところが、本件事故による受傷のため本件事故日以降就業が全く不能の状態に陥った。原告は、本件事故当時四四歳であり、本件事故に遭わなければ、その後も二三年間稼働することができた。平成七年の女子労働者四四歳の平均賃金(年収)は、三六三万三七〇〇円であるから、新ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除すると、原告の休業損害ないし逸失利益は、次の計算式のとおりとなる。

(計算式)3,633,700×16.045=54,669,016

(一円未満切捨て)

(一〇) 入通院慰謝料 三六〇万円

(一一) 後遺障害慰謝料 二五〇〇万円

(一二) 自賠責共済金(二九七一万六七五〇円)についての確定遅延損害金(年五分の割合による平成七年一一月一日から受領日である平成九年一一月一〇日まで七四〇日間分) 三〇一万二三八二円

(一三) 弁護士費用 一四〇〇万円

よって、原告は、被告らに対し、右損害金合計額一億九二一六万五一六四円から填補額五一九五万七四七三円を控除した一億四〇二〇万七六九一円及び内金一億三七一九万五三〇九円に対する本件事故日である平成七年一一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告保険会社の主張)

不知ないし争う。

原告の症状(手すりをもって数メートル歩行可能、用便自力排泄可能、食事自力摂取可能、日常会話一応正常)から自宅増築の費用は認められない。

付添看護費は一日あたり三〇〇〇円が相当である。そして症状固定時の原告の平均余命三六年で算定すべきである。

原告の入・通院していた病院はいずれも公立病院であり、医師への謝礼は認められない。

症状固定時までの休業損害については、本件事故前の平成六年の給与収入(年収一七九万四四三一円)を基礎として算定すべきである。

逸失利益については、症状固定時の原告の年齢である四五歳の平成七年度賃金センサスにより、就労可能な六七歳までを計算すべきである。

保険金請求権についての履行遅滞は、保険会社が被害者から履行の請求を受けた時にはじめて遅滞に陥るから、自賠責共済金についての確定遅延損害金は認められない。

弁護士費用は本件事故と相当因果関係を有するものではない。

(被告敦基及び被告ら補助参加人の主張)

不知ないし争う。

入院期間が長期にわたっているから、入院雑費の一日あたりの金額を減額すべきである。

自宅増築費用については、家族との共用部分もあるから、割合的認定がなされるべきである。

将来の付添看護費用についても、原告の請求額は高額である。

医師への謝礼は、原告の感謝の気持ちとしてなされたものであり、本件事故と相当因果関係にない。

自賠責共済金は、被害者請求によりいつでも請求可能であるから、事故日から受領日までの遅延損害金を加害者に請求するのは不合理である。

2  損害の填補

(被告ら及び被告ら補助参加人の主張)

平成一〇年一二月分以降から支給が再開された障害補償給付年金(平成一〇年一二月分から平成一一年五月分までの六か月分)九八万六九四九円も損害の填補にあたる。

(被告保険会社の主張)

原告は、本件事故に関し、被告敦基から前記争いのない一〇一六万〇二六〇円からの支払の外、合計一四万一四三二円の支払を受けているので、これも損害額から控除すべきである。

(原告の主張)

見舞金一〇万円及び送金手数料三〇五〇円は、いずれも損害の填補にあてた費用ではない。その外の三万八三八二円は、預金残高をも誤って損害の填補額に算入してしまったものと思われる。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(原告の損害額)

1  証拠(甲二ないし四、五2、3、六、七、八1ないし3、九、一〇1、2、証人瀬野進、同松本明子)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 治療経過等

原告(昭和二六年六月二八日生、本件事故当時四四歳)は、本件事故の結果、頭部外傷、右前頭部脳挫傷、右前腕部開放骨折、脳内出血、外傷性クモ膜下出血、右肘関節脱臼、右腓骨頭骨折、右下腿挫滅創、右膝前十字靱帯損傷、内側側副靱帯損傷、右足関節脱臼、遷延性意識障害、播種性血管内凝固症候群、症候性癲癇、高次脳機能障害等の傷害を負い、本件事故当日である平成七年一一月一日、意識消失のまま救急車にて市立舞鶴市民病院(以下「舞鶴病院」という。)に搬送され、治療・リハビリを続けた。平成九年二月一四日、意識障害及び精神症状の面の症状が固定したが、高次脳機能障害のため、強い精神症状、見当識障害が残り、不穏・錯乱状態があり、日常生活は全介助が必要な状態のままであった。次いで平成九年三月七日、右上・下肢の機能障害の面の症状も固定したが、歩行も室内のつたい歩きが日によってはできる日があるという程度であり、右上・下肢の機能障害と頭部外傷による高次脳機能障害のため、終日日常生活介助が必要な状態のままであった。京都府共済農業協同組合連合会は、原告の後遺障害につき、自動車損害賠償法施行令別表の後遺障害等級表一級三号に該当する旨の認定を行った。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) 後遺障害等級、症状固定時期

右認定事実によれば、原告の症状は、平成九年三月七日に固定したものであり、その後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害等級表一級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの)に該当するものと認められる。

2  損害額(損害の填補分控除前)

(一) 治療費 九九四万六九三六円

原告は、本件事故による治療費として九九四万六九三六円を要したと認められる(甲一一1ないし15、丙一、二、弁論の全趣旨)

(二) 入院雑費 四〇万九五〇〇円

原告は、平成七年一一月一日から平成八年九月一〇日までの三一五日間入院し(甲六、七)、一日あたり一三〇〇円として、合計四〇万九五〇〇円の入院雑費を要したと認められる。

(三) 交通費 五万一〇〇〇円

親族による付添看護のため、平成七年一一月及び同年一二月分の交通費として五万一〇〇〇円を要したと認められる(丙一)。

(四) コルセット等装具代 一六万七三〇七円

原告は、コルセット等の装具代として、一六万七三〇七円を要したと認められる(甲四二1、2、四三1、2)。

(五) 自宅増改築費用 一四〇万円

前認定にかかる原告の状態にかんがみると、原告の日常生活を可能とするためには、一階の部屋を増築するとともに手すり等の設備をつける工事が必要であり、右改造をするために一四〇万円を要したと認められる(甲一九ないし二四、丙一、証人瀬野)。右増改築が原告の家族自身の便にも資すると認めることはできず、割合的認定をすべきであるという被告敦基及び被告ら補助参加人の主張は採用できない。

(六) 付添看護費 四七六万五〇〇〇円

(1) 平成七年一一月一日から同年一二月三日まで親族による付添看護費として一六万五〇〇〇円(一日あたり五〇〇〇円、三三日間分)を要したと認められる(弁論の全趣旨)。右認定以上の金額が相当であることを認めるに足りる証拠はない。

(2) 平成七年一二月四日から症状固定日である平成九年三月七日まで職業付添人及び親族による付添看護費として合計四六〇万円(一日あたり一万円、四六〇日間分)を要したと認められる(丙一、弁論の全趣旨)。右期間中に右認定以上の相当因果関係のある付添看護費を要したことを認めるに足りる証拠はない。なお、症状固定日後の付添看護費については将来の付添看護費の箇所で料断する。

(七) 将来の介護費 七四三〇万三〇五〇円

原告は、症状固定時四五歳であるから(甲六、七)、その後三九年間は介護を要し、一日あたり平均して一万円の介護費を要するものと認められる。

したがって、将来の介護費は、新ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除すると、次の計算式のとおりである。なお、右認定にかかる金額は、将来の介護費として原告の請求する金額よりも多くなっているが、これは、平成九年三月八日以降の付添看護費を将来の介護費の箇所で判断したことによるものであり、付添看護費と将来の介護費の合計は原告主張額の合計を超えるわけではないから、弁論主義に反するものではない。

(計算式)10,000×365×(21.309-0.952)=74,303,050

(八) 医師への謝礼 認められない。

原告が支払ったとされる医師への謝礼につき、適切な診療を受けるために必要な出費であったと認めるに足りる証拠はないから、これを本件事故と相当因果関係にある損害とみることはできない。

(九) 休業損害及び逸失利益 五四六六万九〇一六円

原告(本件事故当時四四歳)は、本件事故当時、パート勤務(平成六年のパート収入一七九万四四三一円)をしながら、主婦業に従事していたから(甲一五、一六、証人瀬野)、原告の基礎収入としては、平成七年度賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計女子労働者(四〇ないし四四歳)の平均年収である三六三万三七〇〇円(当裁判所に顕著)とみるのが相当である。

前認定にかかる原告の症状・治療状況にかんがみると、原告は、本件事故の結果、就業不能の状態に陥り、その労働能力の全てを本件事故時から二三年間にわたって喪失したものと認められる。

したがって、休業損害及び逸失利益は、新ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除すると、次の計算式のとおりとなる。

(計算式)3,633,700×15.045=54,669,016

(一円未満切捨て)

(一〇) 入通院慰謝料 三六〇万円

原告の被った傷害の程度、治療状況等の事情を考慮すると、右慰謝料は三六〇万円が相当である。

(一一) 後遺障害慰謝料 二五〇〇万円

前記のとおり、原告の後遺障害は、後遺障害別等級表一級に相当するものであり、原告の右後遺障害の内容及び程度を考慮すると、右慰謝料は、二五〇〇万円が相当である。

(一二) 自賠責共済金(二九七一万六七五〇円)についての確定遅延損害金(平成七年一一月一日から受領日である平成九年一一月一〇日まで七四〇日間分) 三〇一万二三八二円

本件事故日は平成七年一一月一日であるところ、自賠責共済金二九七一万六七五〇円は、平成九年一一月一〇日に支払われたから(弁論の全趣旨)、右二九七一万六七五〇円につき、原告らの請求する七四〇日分の確定遅延損害金(年五分の割合)は三〇一万二三八二円となる(一円未満切捨て)。

被告保険会社は、保険金請求権についての履行遅滞は、保険会社が被害者から履行の請求を受けた時にはじめて遅滞に陥るから、自賠責共済金についての確定遅延損害金は認められないと主張するが、原告が請求する確定遅延損害金は、保険金請求権を元本とするものではなく、損害賠償請求権を元本とするものであるから、被告保険会社の右主張は採用できない。また、被告敦基及び被告ら補助参加人は、自賠責共済金は、被害者請求によりいつでも請求可能であるから、事故日から受領日までの遅延損害金を加害者に請求するのは不合理であると主張するが、不法行為による損害賠償債務は、損害の発生と同時に遅滞に陥るから、右主張を採用することもできない。

(一三) 以上合計

以上の合計は、一億七七三二万四一九一円((三)の確定遅延損害金を除くと一億七四三一万一八〇九円)である。

二  争点2について(損害の填補)

1  損害の填補 五二九四万四四二二円

(1) 原告が、本件事故に関し、〈1〉被告敦基から一〇一六万〇二六〇円、〈2〉自賠責共済から二九七一万六七五〇円、〈3〉労災保険から療養補償給付として九九〇万〇二七三円、休業補償給付として一二〇万一八二四円、障害補償給付(平成九年九月分まで)として九七万八三六六円の支払を受けたことは、当事者間に争いはない。

(2) 平成一〇年一二月分以降から障害補償給付年金が再開され、その年金額は二か月分で三二万八九八三円であると認められる(甲六三、丙二)。本件口頭弁論の終結は平成一一年六月一五日であるから、平成一〇年一二月分から平成一一年五月分までの六か月分に相当する障害補償給付年金の九八万六九四九円も損害の填補による控除の対象となる。

(3) 被告保険会社は、原告は、本件事故に関し、被告敦基から前記争いのない一〇一六万〇二六〇円からの支払の外、合計一四万一四三二円の支払を受けているので、これも控除すべきであると主張するが、見舞金一〇万円、送金手数料三〇五〇円及び預金残高三万八三八二円は、いずれも損害の填補の性質を有せず、被告保険会社の右主張は採用できない。

2  損害額(損害の填補分を控除後)

原告は、本件事故に関し、合計五二九四万四四二二円の支払を受けているから、これらを前記損害の填補分を控除する前の損害額の合計一億七七三二万四一九一円から控除すると、残額は一億二四三七万九七六九円(確定遅延損害金を除くと一億二一三六万七三八七円)となる。

三  原告の損害額(弁護士費用加算後)

1  弁護士費用 八五〇万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき原告の弁護士費用は八五〇万円をもって相当と認める。

2  まとめ

よって、前記残額に右弁護士費用を加算すると一億三二八七万九七六九円(確定遅延損害金を除くと一億二九八六万七三八七円)となる。

四  結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

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